「愛の手」運動の岩崎さんを表敬訪問
家庭養護促進協会大阪事務所と毎日新聞大阪本社が、児童相談所などと連携して里親を探すキャンペーンを50年以上にわたって継続しているのをご存じでしょうか。「あなたの愛の手を」と題した記事は、マスメディアのキャンペーン報道としては異例の長期企画です。これまで乳児院や児童養護施設を訪れて取材をした「愛の手記者」も相当な数にのぼります。かくいうわたしも過去に担当したことがあり、取材を通じて親とはなにか、親子とはなにかという問題について教えられました。関西に引っ越して2年もたつのに、事務所訪問がはたせずにいたのですが、ようやく今日、愛の手運動のアイコンともいえる岩崎美枝子さんと25年ぶりの再開をはたしました。
家庭養護促進協会大阪事務所
旧HP http://ss7.inet-osaka.or.jp/~fureai/
現HP http://homepage2.nifty.com/fureai-osaka/
子どもの養子縁組ガイドブック――特別養子縁組・普通養子縁組の法律と手続き
親子になろう! (あたらしいふれあい)
大阪本社発行の毎日新聞大阪版には毎週日曜日に「あなたの愛の手を」という記事が掲載されています。担当記者は1つの記事に原則ひとりの子供を紹介します。施設の職員などから綿密に聞き取りをして、その子の魅力を伝えるのは至難の業です。「ちょっぴり甘えん坊」「引っ込み思案だけど面倒見が良い」「動物が大好き」「ミルクをよく飲みます」「つたい歩きができるようになりました」・・・・・・ そんな記事にかわいい写真を添えます。もしかしたら1枚の写真でその子の人生が左右されるかもしれないと思うと緊張します。その緊張が子供に伝わって、泣き出されたりすることも。
事務所を訪れ、古いスクラップ帳をみせていただきました。そこには、四半世紀前にわたしが書いた里親探しの記事もあり、その横に岩崎さんたちが里親の名前をペンで記していました。記者は子供を紹介するのが仕事。毎日新聞社は紙面のスペースを提供するのが仕事。しかし、事務所スタッフは、里親希望者と面談し、いくつものアドバイスをおこない、里親たちを長期にわたって支援していて、その活動が半世紀を超えていることの尊さに、あらためて打たれました。
何人もの記者と接してきた岩崎さんからみれば、わたしなど存在感の薄い「端役」だったはずですが、事務所に足を踏み入れるなり「ちっとも変わってないやん!」と言葉をかけていただき感激しました。わたしが「あなたの愛の手を」の連載を担当したのは、ほんとうに短い期間です。ただ運の良いことに、わたしが担当したのが1989年で、キャンペーン25年の節目であったため、「愛の手運動25年」の企画記事や親子を考える連載記事を書く機会に恵まれたのです。岩崎さんたちとスクラップ帳をめくりながら昔話をしているうちに、視界が幾度も涙でぼやけました。歳ですね。
ときおり、龍谷大学で学生から「記者時代をふりかえって一番心に残った取材はなんですか」という質問を受けることがあります。そんなとき、かならず言及するのが「愛の手運動」のことです。
マスメディアについて勉強したことのある人は「ジャーナリズムの使命は権力監視」と考えがちです。「ジャーナリストは歴史の記録者」、「客観的な観察者という姿勢を貫き、事実をありのまま市民社会に報告(報道)する義務がある」などと説明されます。四半世紀前のわたしも、そう信じていました。なので「愛の手記者」を命じられたとき、落胆しました。記者失格の烙印を押されたと勘違いしたのです(もちろんすぐに里親探しの運動に共鳴し、熱中してしまいましたが)。
当時のわたしには哲学的な概念を操る能力も知識もありませんでしたが、いま振り返れば、里親を探す「愛の手」キャンペーンは、地域社会にとって利益を追求する「共通善のプロジェクト」。ジャーナリズムの社会福祉的な任務をはたしていると断言できます。
きたる7月7日(火)11時から、龍谷大学瀬田学舎8号館地下B103教室で、わたしが担当する「現代ニュース論」という授業に、「愛の手運動」50年の特集記事を担当した毎日新聞記者を招き講演をしてもらいます。あれから25年。後輩記者が50周年の記事を書いているなんて、25年前のわたしには想像もつきませんでした。龍大の学生・教員はもとより、家族に関する社会学や社会福祉学を学ぶ人にも聴講していただきたいと思っています(拡散希望)。
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