新連載 ジャーナリズムの道徳的ジレンマ
「ジャーナリズムの道徳的ジレンマ」と題する連載をけいそうビブリオフィル(勁草書房編集部ウェブサイト)で始めました。「道徳的ジレンマ」といえば、マイケル・サンデル教授によるハーバード白熱教室の「暴走する路面電車」などを思い出しますね。ジャーナリズムの住人も、抜き差しならない場面で苦渋の選択を迫られることがあります。そんなとき判断基準になるのは、業界団体や所属企業、あるいは職能団体が作ったルールや経験則です。しかし……
しかし、世界は複雑ですし、ルールブックも完璧ではありません。業界が作ってきた規定の何割かは、デモクラシーや言論・表現の権利のためですが、べつの何割かは訴追されたり賠償を求められないための防衛策です。ジャーナリズム業界の「常識」が、市民社会やサイバースペースの「非常識」に映ることは珍しくありませんし、業界の慣行に従ったため心に深い傷を負ってしまった取材者もいます。
近年、メディア倫理に対する要求は高まる一方ですが、道徳の問題としてジャーナリズムを考える機会は少なかったのではないか――わたしはそんな疑問を持っています。
初回の記事「〈CASE 01〉 最高の写真? 最低の撮影者?」では、ピュリツァー賞を受賞した報道写真家の例を考えます。ただ、なにも有名な事例ばかりを扱うつもりはありません。いわゆる「マスコミ批評」とは違う観点から検討していくことを企てていますので、大手メディアだけでなく、小規模なメディアや、専門的なメディアの関係者が直面している難問も扱っていくでしょう。
毎回の記事で、「これが正しい答えだ」という見解を示すわけではありません。どの事例も「正解」はないと思います。「どうせ正解がないのなら意味がない」という思考停止型の人もいるでしょう。でも、「正解がないからこそ懸命に考え、問いつづけることが大切」という人には面白がってもらえるのではないかと思います。ジャーナリストになりたいと考えている若者や、就活中の学生にも、すこしは役に立つのではないでしょうか。連載の素材(いわゆるネタ)を提供してくださる方も随時募っていますので、気軽に連絡をください。
最後に、ウェブ連載の場を与えてくれた学術系出版社・勁草書房(東京都文京区)にひと言。勁草書房はわたしの博士論文を書籍(『地域ジャーナリズム』)として市場に出してくれました。この本が学会賞を受けたこともあり、このたび連載のお声がけいただいた次第です。あらためて感謝申し上げます。
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