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2017年7月 3日 (月)

始動 全国地域紙ネット

 地域紙のジャーナリストたちの“よろず相談所”をfacebook上に開設しました。名目上、わたしが世話役を務めていますが、わたし一人ではあまりに非力なので、丹波新聞社の足立智和記者の力を借りています。まだ生まれたばかりの「ひよっこ」で「あまちゃん」のような存在ですが、地域紙のみなさんの参加を募ります。

全国地域紙ネット https://www.facebook.com/zenchishi/

●なぜ地域紙なのか

 全国紙や県紙(地方紙)よりも小さな「地域紙」は、全国に約200あります。そうした地域紙は、ながらく「ジャーナリズムの実践者」とは見なされてきませんでした。

 理由のひとつに、地域紙の多くが日本新聞協会に加盟していないことが挙げられます。日本新聞協会は敗戦後の占領期、日本の全国紙と県紙が設立した業界団体で、設立過程に占領軍への忖度や隷従があったことが知られています。地域紙で新聞協会に加盟している社は少数です。

 現在発行されている地域紙の一部は、戦時下の新聞統合(一県一紙政策)によって強制的に休刊に追い込まれながらも、戦後復刊した気骨ある言論機関です。明治・大正期に創刊した名門紙も少なくありません。他方、地域紙の中には、「地方の時代」やミニコミブームなどを映すかのように1970~1980年代に創刊された新しい新聞もあります。それら新興紙は、言論機関というよりも、暮らしに密着した独自のスタイルを追求してきました。

 多様な地域紙は、多様なジャーナリズムの担い手です。規模が大きな新聞社でも、政府の宣伝機関のような記事を載せる例もあります。ジャーナリズム活動の良し悪し、企業規模の大小とは関係ありません。規模の小さな新聞社を、規模の小ささゆえに「ジャーナリズムの実践者」ではないと見なしている人には考えをあらためてほしいと思います。

●つながる必要

 地域紙は多様です。全国の地域紙の一面トップの記事が揃うことはありません。

 全国紙と県紙は、金太郎飴のような紙面構成です。2017年7月3日の紙面で言えば、多くの社が「自民惨敗」を第1面でじているのではないでしょうか。東京以外の県紙に都議選の記事が載るのは、通信社の記事を使っているからです。

 それに比べれば地域紙は地元密着です。決して金太郎飴にはなりません。東京で何が起ころうと、優先すべきは「わがまち」です。それゆえ、わたしは、地域紙が発行されている地域は、大都市圏よりも豊かな情報環境にあると考えています。

 ただし、地域紙のジャーナリストたちには弱点があります。それは、地域紙どうしのつながりが弱いことです。

 日本新聞協会は、戦時下の統制団体メンバーがGHQの顔色を見ながら作ったような団体なので、結束も強く横ツナガリがあります。県紙の記者たちは機関誌『新聞研究』を通じて学び合ったり、新聞協会での会合や労組活動などで多くの刺激を受ける機会に恵まれています。

 これに対し、地域紙は業界団体の歴史も浅く、全国的な活動も活発とはいえません。多くの地域紙は、県庁所在地に本社がある県紙と違い、県内では第2、第3の町で発行されています。隣の地域紙までの距離が遠く、地域紙記者どうしの交流はほとんどありません。

●根拠なきヒエラルキー

 地域紙がある場所は「課題先進地」です。過疎、限界集落、耕作放棄地、医師不足、弁護士不足、買い物弱者……。これらの難問は、全国紙や県紙の記者たちも記事にしますが、読者は首都圏や京阪神、県庁所在地の読者。取材記者たちも「よそ者」です。これに対し、地域紙は当事者。地域紙記者は、文字通り地元の隣人です。

 東日本大震災で宮城県石巻市の地域紙『石巻日日新聞』が手書きの壁新聞を作り、世界のジャーナリストから絶賛されました。当事者だからこそできた報道です。わたしが博士論文で研究した新潟県上越市の地域紙『上越タイムス』は20年近くにわたってNPOとの協働を続けていますが、この事例は日本新聞協会がいう「編集権」の問題を“告発”しています。

「全国地域紙ネット」の立ち上げにスクラムを組んでくれた丹波新聞社の足立記者は、地域医療の崩壊を食い止めた運動団体「県立柏原病院の小児科を守る会」設立の立役者です。全国紙や県紙は「会」のことを記事にしても、地域紙記者の貢献を過小評価しているとしか思えません。

 各地の地域紙記者たちが、工夫をこらして確立した取材法や連載企画、紙面作りのノウハウを伝え合い、励まし合い、学び合える場は必要です。全国の地域紙記者たちが切磋琢磨することは、マスメディアの東京一極集中や、全国紙>地方紙>地域紙という理由なきヒエラルキーを改善することにつながります。

 集いましょう。全国にいる地域紙のみなさん。

Zenchishi_2


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コメント

初めまして。デーリー東北新聞社の田中と申します。文化通信の11月27日の記事を見て、連絡させていただきました。
弊社では、以下のイベントを企画しております。
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デーリー東北新聞社は、本紙の経済特集号「エコノミック・マンデー(EM)」のグッドデザイン賞受賞と来年登場予定の本社の新たなキャラクター誕生を記念し、地方紙の役割について考えるトークイベント「新聞トーキングカフェ」を1月12日(金)、八戸市の本社メディアホールで開催します。
 テーマは「もし新聞が明日からなくなったら…」。コーディネーターはクリエーティブ戦略家の関橋英作さん、パネリストは金入代表取締役社長の金入健雄さん、八戸学院大学長補佐の玉樹真一郎さん、こどもはっち代表の平間恵美さん、フリーライターの石橋春海さん、コメンテーターは本社の荒瀬潔代表取締役社長が務めます。
 午後3時から同5時まで。トークイベントに先立ち、EMと新キャラクターを紹介します。参加無料。申し込みは住所、氏名、連絡先を明記し、ファクス=0178(47)0841=、メール=soumu@daily−tohoku.co.jp=でお願いします。先着80人。
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もしご興味がございましたら、弊社経営企画室長の風張知子(kazahari@daily-tohoku.co.jp)までご連絡いただければ幸いです。

投稿: デーリー東北新聞社 経営企画室 田中修悟 | 2017年12月26日 (火) 10時01分

デーリー東北新聞社
田中修悟様

コメントいただきありがとうございます。じつに興味深いトークイベントですね。
よろしければ、facebookの「全国地域紙ネット」へのご参加もお待ちしております。

畑仲哲雄

投稿: 畑仲哲雄 | 2017年12月26日 (火) 12時37分

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