ゼミ学生の推薦状
就活のシーズンになると、大学生たちは授業を休みがちになり、教員としては怒り心頭の連続なのですが、ことしは心に残った珍事がありました。ゼミ生の1人が神妙な顔をして「先生、わたしの推薦状書いてください」と頼んできたのです。その会社では、かならず提出させている書類のひとつだそうです。ちょっと頭にきましたが、さすがに断れません。
会社側の思惑か容易に分かりました。就活の現場は、いわば「キツネとタヌキの化かし合い」です。学生たちにしてみれば、自分がいかに優れた人材であるかをアピールしなければなりません。平然と嘘をつく応募者もいるでしょう。企業側も学生が話を“盛って”いるのを分かっていると思いますが、嘘をつきすぎて心身のバランスをこわす学生もいるくらいで、笑っていられません。
ところで、企業側からすれば、わずか数回の面接で学生を評価するのはリスキーです。採用する側としては、心配なので何度も何度も学生を呼び出して面接します。おかげで大学の授業は妨害されます。そんな愚かなことをするくらいなら、ゼミ教員に「この学生はどう評価しますか」と聞くほうがましだと思います(さすがにバイト先の店長さんとかに聞けませんわね)。
龍谷大学社会学部コミュニティマネジメント学科の場合、学生と最も長時間接しているのはゼミの教員です。3年から4年にかけてまるまる2年間学生たちと接し、論文指導もします。ゼミ合宿をしたり、他大学と合同ゼミをやったりします。どの学生が賢いのか、どの学生がゼミ長などの役割を厭わずに務めているのか、どの学生がムードメーカーとしてゼミを下支えしているのか……まあある程度わかります(ポジティブな評価だけでなく、その気になればネガティブな評価もできますけどね)。
企業の採用担当者は、学生を何度も何度も呼び出して学業を阻害するのは止めて、ゼミ教員に問い合わせてみてはどうでしょう。企業側は学生が盛った「嘘」を見破れるし、私も授業妨害を防げます。いかがでしょう。連絡先はこちらです→ hata@soc.ryukoku.ac.jp
さんざん授業妨害してくれた企業が学生に「おいゼミ教員に推薦状書かせろ」と要求するようなケースでは、さすがに突っぱねますけどね(笑)
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コメント
いい案だと思います。
だまし合いはどこでもあると思いますが、ちょっと行きすぎ、というか、無駄がすぎる レベルになっている気がしますしね。
アメリカなどでは、学部生の就職にも推薦状書くことも結構あるように思います。
しかも、あまり「盛らない」で。
教員の負担は大きくなるかもしれませんが、そういうのもありだと思います。
少なくとも教員に問い合わせてもらうのはいいアイデアかもしれませんね
ゼミ前のくそ忙しい時につい目に留まって読んでしまいましたが、読んでよかったです。
投稿: 坂本 清彦 | 2019年11月 7日 (木) 10時54分
コメントありがとうございます。
アメリカのビジネスの場では、転職先の企業が転職前の会社に人物評価を照会するのが多いと聞いていましたが、学部生の就職でも「盛らない推薦状」を書く例が結構あるというのは驚きです。
インターンシップ名目でタダ働きさせたり、訳の分からないお題で集団討論させたり、人格否定の圧迫面接をしたり・・・・・・、それで人物を評価できると思っている企業関係者の感覚こそ問題です。グローバルな坂本先生からすれば「井の中の蛙」というか、悪しき島国根性に映っているのでしょうね。
「大学教育なんて仕事に役立たない」と考えている企業人たちは、おそらく学業そっちのけで就活に没頭していたのでしょう。悪循環を断つには、企業人に学問の意義を理解してもらうことでしょうね。
投稿: 畑仲哲雄 | 2019年11月 7日 (木) 12時13分