高学歴エリートよりも、多様な人材の確保を
2025年の今、報道の現場で働く記者たちは、私たちの世代が経験した頃とは比べものにならないほど厳しい環境にいます。そのような状況でも、ジャーナリズムの世界で奮闘する若い世代の姿には、本当に頭が下がる思いです。素晴らしい仕事をする記者は、今もたくさんいます。
それにもかかわらず、メディア全体への信頼は、残念ながら下がり続けています。なぜでしょうか。その原因の一つは、私たちオールド世代の怠慢と勉強不足にあったのかもしれません。もちろん、私自身もその責任から逃れることはできません。
エリートへの不信が、メディアにも向けられている?
この根深いメディア不信を解くヒントの一つは、マイケル・サンデルが指摘する「メリトクラシー(能力主義)」の問題に隠されているように思えます。
サンデル氏の著書『実力も運のうち』が示すように、現代では能力の高い「エリート層」へ向けられる不信感が強まっています。その眼差しは、大手メディアで働くジャーナリストたちにも、同じように向けられているのではないでしょうか。
考えてみれば、全国的に有名なメディアの中核を担う人の多くは、恵まれた家庭で育ち、難関大学を卒業したエリートです。その中で、自分が「幸運な下駄」を履かせてもらっていたと自覚している人は、どれくらいいるでしょう。
私たちの世代が就職活動していた頃、マスメディア界では「コネ入社」が横行していました(いまも一部ではあるでしょう)。親や親戚に有力者がいたり、特定の大学ゼミに所属していたりする人が、大手メディアの「組織ジャーナリスト」になるには、明らかに有利でした。そうした業界慣行が続けば、無意識のうちに、自分と似た境遇の人ばかりが集まめてしまうという構造ができても不思議ではありません。
尊敬される「偉い人」から、反感を買う「憎い人」へ
もちろん、恵まれた環境で育ったジャーナリストの中にも、素晴らしい人は大勢います。私利私欲がなく、社会のために尽くす姿は、まさに「ノブレス・オブリージュ(高貴な者の義務)」を実践する人として、称賛されるべきでしょう。いわゆる「運」も「実力」もあり、能力を開花させた幸運な人たちです。
しかし、もしそんな彼らの言動に、恵まれた自分の立場に対する無自覚さや、どこか権威的な空気が見え隠れしたら、世間の評価はどう変わるでしょう。尊敬されるべき「偉い人」は、たちまち反感を買う「憎い人」になってしまうのではないでしょうか(ソーシャルメディアでは、偽悪的に振るまう人がインフルエンサーになっています)。
多様な経験こそが、信頼回復の鍵
だからこそ、私はマスメディアの編集部門こそ、もっと多様な背景を持つ人々で構成されるべきだと考えます。数回の面接や試験だけで測れる「実力」など、実はとても曖昧なものです。組織に従順なふりをしたり、ソツのなさそうな格好を見せるだけのスキルが、善い人間を作るとは思えません。
むしろ、現代社会が抱える様々な困難に、自らの人生で直接向き合ってきた経験を持つ人(たとえば、社会的マイノリティ)。組織や上司が間違った判断をしたとき決して従わない人(抗命権を行使できる人)。ジャーナリズムの歴史的使命を大学院などで考えてきた人(学位保持者)。そうした人の比率を高めていくことこそが、メディアへの信頼を取り戻すための、確かな一歩になるのではないかと考えます。
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