カテゴリー「journalism」の228件の記事

2019年6月19日 (水)

調査者の属性についての備忘録

ある集団を調査するには、同じ属性を持つ者のほうがやりやすい。たとえば、性暴力の被害を受けた女性たちから聞き取りをするには、やはり女性研究者のほうがハードルは低いだろう。エスニシティやジェンダーをめぐる差別や人権をめぐる問題は、やはりマイノリティの研究者のほうが敏感である。実際のところ、マイノリティ集団の調査は、マイノリティの属性をもつ研究者によって担われることが多いのではないいか。
 
けれど、同じ属性やアイデンティティをもつからといって〝本音〟 に迫れるとは限らない。調査者と被調査者の関係が近すぎて、もはや聞くまでもない話題もあるだろうし、「これは聞いてはいけない」と規制してしまう話題もある。
他方、被調査者の側に立って考えると、近しい人には聞かれたくないけれど、赤の他人(よそ者)だからこそ話しやすい話題というものもあるはずだ。わたし自身の記者時代を振り返っても、「こんなこと誰にもしゃべったことないんだけど、じつは」「これって、親には口が裂けても言えないことだよ」「ここじゃあタブーだから誰も口にしないけど、言っちゃうよ」みたいなインタビューを幾度か経験している。
 
「よそ者」の調査者は、集団成員なら共有している体験をもたないので、情報収集の過程で誤解したり失言したりと、いわゆる地雷を踏む可能性が高い。「そんな勉強不足で来たな」「お前らよそ者に何が分かるか」・・・・・・。そんな体験をした取材者や調査者は少なくないはずだ。よそ者は、地雷を踏んでしまった苦い体験を隠すのではなく、むしろ、地雷を踏んだことが貴重な成果であると提示するほうがよいし、それが一種の強みになり得るのではないだろうか・・・・と書くと、一種の開き直りと指摘されるかも知れないかな。

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2019年6月 5日 (水)

授業で『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』を使う方法 連載「ジャーナリズムの道徳的ジレンマ」第22回

全国の大学で、メディアやジャーナリズムに関する講義がおこなわれています。授業の名前は大学によって「マスコミ論」「メディア論」「取材学」「新聞論」「出版論」「放送論」など異なっています。私は本務校の龍谷大学社会学部で「現代ニュース論」「メディアと倫理」を、大学院では「地域メディア研究」などの授業を担当しています。 51hqhwugil_sx348_bo1204203200_

授業で『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』を使う方法←click!

「現代ニュース論」は、今年度も受講者が180人にのぼったので講義形式にしていて、マスコミュニケーションの代表的な理論のほか、時事問題について討議を交えて考えるようにしています。もう一方の「メディアと倫理」という授業は、受講者数がちょうど良かったので『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』を教科書に指定して、グループワーク型の授業をおこないました。

学生の側から見れば、 講義形式の授業は体系的に整理整頓された情報を効率的に吸収できます。これに対し、グループディスカッションなどを取り入れたワークショップ型の授業は、彼ら彼女らが授業の主役として参加するため、内容が記憶に残りやすく、その場で頭を使うタイプの「学び」に向いているようにます。ちらも一長一短といえそうですが、同僚の教員たちによると、近年の学生にはワークショップ型の授業のほうが人気だそうです。

そこで、わたしが『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』をどのようにして授業で使っているかについて、けいそうビブリオフィル(勁草書房編集部サイト)に新しい記事を投稿しましたので、もし授業で使ってくださる他大学の先生がいらしたら参考にしていただきたいと思います。同時に「いやいや、こういう使い方もあるよ」というアイデアがあれば、教えていただきたいと思っています。授業のやり方については、わたし自身が試行錯誤の連続ですので。

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2019年2月14日 (木)

戦没新聞人の碑とカメジロー

Photo_2これまで仕事のため沖縄を数回訪れていますが、今春ようやく「戦没新聞人の碑」の前に立ちました。この碑はわたしが生まれた1961年9月の末に建立されています。除幕式のようすについて、毎日新聞はベタ記事で次のように伝えています。

【那覇三十日三原特派員】沖縄で戦死した新聞人十四人の功をたたえる「戦没新聞人の碑」の除幕式が新聞週間を前に(1961年9月)三十日午後、遺族をはじめ瀬長琉球政府副主席、新聞、放送関係者ら約百人が列席那覇市波上、旭加丘で行われた。戦没者のうち十二氏は、当時の沖縄新聞社の関係者で、そのほとんどは輪転機を最後まで守り砲爆撃に倒れた。他の二氏は宗貞利登朝日新聞那覇市局長、下瀬豊毎日新聞那覇支局記者で、激烈を極めた戦場で報道の任務に散ったものである。

この碑の前で慰霊祭が毎年営まれているようですが、胸中は複雑です。というのも当時の新聞人は戦時宣伝の担い手だったからです。「自由な報道が許されず不本意であった」という人が皆無だったとは思いませんが、むのたけじさんの回想などを読んでいると、当時の新聞倫理がどのようなものであったかは容易に想像できます。沖縄でどのような新聞が発行されていたかについては、琉球新報社の『沖縄戦新聞』でも一端が紹介されています。

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2018年11月 3日 (土)

「華氏119」が描く大手メディアの欠陥

映画「華氏119」で感心したのは、マイケル・ムーア監督がドナルド・トランプの個人的資質だけを問題にしているのではなく、むしろメディアの構造的な欠陥をわかりやすく示していたことです。日本在住の私たちも他人事ではありません。他山の石として学んでおく価値があると思いました。

マイケル・ムーア『華氏119』公式サイト

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2018年10月31日 (水)

「朝日ぎらい」を変える

「もう、『マスコミが悪い』と突っ込まなくなりましたよ」。先日、ある市民講座のあとで受講生からそんなコメントをもらい嬉しくなりました。その方は、学生時代に『朝日ジャーナル』や『世界』の読者だった団塊世代で、いつしかすっかり「朝日ぎらい」に。わたしの授業が変化の契機になったとすればうれしいですね。

龍谷大学の公開講座「RECコミュニティカレッジ」

わたしは、龍谷エクステンションセンターが運営する市民講座で「ジャーナリズムの道徳的ジレンマ~報道現場の難問を考えるワークショップ」という授業を担当しています。この授業は、報道倫理の難問をさまざまな角度から考える一種の哲学カフェです。わたしの主な役目はお題の提供とタイムキーパー。受講生同士が小グループに分かれて意見を聴き合い、最後は各グループでまとめた意見をクラス全体で共有するというのが授業の流れです。

対話型の授業は、いわば「文殊の知恵」的な解を求めるというよりも、むしろ、意見の違いを際立たせ、異なる意見を尊重しあうことに力点を置きます。「論破」とはまったく違うスタイルです。

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2018年8月31日 (金)

『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』を出版しました

『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』が2018年8月31日、発売されました。この本は学術出版・勁草書房の編集部が運営する「けいそうビブリオフィル」で連載していたものを単行本化したものです。必要に応じて加筆修正を施し、新たに書き下ろした章も盛り込まれています。宣伝めいて恐縮ですが、構想10年、執筆2年余です。よろしくお願いします。

以下は、版元サイトに掲載されていた本のデータです。

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書 名: 『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』
著 者: 畑仲 哲雄
発 行: 勁草書房
判 型: A5判
頁 数: 256ページ
定 価:  2,300円+税
ISBN: 978-4-326-60307-7

■紹介
報道倫理のグレーゾーンに潜む20の難問。現場経験も豊富な研究者ならではの視点で再考する、ジャーナリズムの新しいケースブック。

■内容説明
ニュース報道やメディアに対する批判や不満は高まる一方。だが、議論の交通整理は十分ではない。「同僚が取材先でセクハラ被害に遭ったら」「被災地に殺到する取材陣を追い返すべきか」「被害者が匿名報道を望むとき」「取材謝礼を要求されたら」など、現実の取材現場で関係者を悩ませた難問を具体的なケースに沿って丁寧に検討する。

■章タイトル
第1章 人命と報道
第2章 報道による被害
第3章 取材相手との約束
第4章 ルールブックの限界と課題
第5章 取材者の立場と属性

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2018年8月25日 (土)

『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』届きました

Dilemma20180825_1_2昨夜遅く『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』10冊が自宅に届きました(本屋さんに並ぶ前に著者に届けられるんです)。ブックデザインや色合いは書影(画像データ)の通りですが、256頁はそれなりの質感ですが、ソフトカバーのA5判なので、カバン内でも邪魔にならないでしょう。

勁草書房編集部サイトの連載記事の誤字脱字を修正し、必要に応じて加筆修正し、新しい記事も追記してあります。アマゾンなどのネット書店では予約注文を受付中です。どうぞよろしくお願いします。

畑仲哲雄『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』勁草書房, 256頁, 本体2300円, ISBN 978-4-326-60307-7

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2018年8月24日 (金)

『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』の書影公開

20_moral_dilemmas版元の勁草書房サイトで、本のデザイン画像(書影)が公開されました。数日内にアマゾンや楽天などのネット書店にも登場すると思います。

羅針盤のNEWSの上で good bad right wrong の矢印が散らばっている絵柄は、本の中身をみごとに表してくれています。デザイナーさんありがとう。

『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』 勁草書房, 256頁, 2300円, ISBN 978-4-326-60307-7

勁草書房のサイトではAmazon以外の書店がリンクされています。アンチAmazon派は版元サイトからごらんください。


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2018年8月 6日 (月)

報道倫理の新しいケースブック

2018年度後期から、別の教員が受け持っていた「メディアと倫理」という講義を担当することになりました。授業内容は、ジャーナリズムの現場で実際に起こった悩ましいできごとを、グループディスカッションを通じて考えていくというものです。前任の教員とさほど変わりはありません。ただし教科書を使います。

『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』 勁草書房, 256頁, 2300円, ISBN 978-4-326-60307-7
版元サイトではAmazon以外の書店がリンクされています。アンチAmazon派は版元サイトからごらんください。

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2018年5月 8日 (火)

後輩の女性記者が取材先でセクハラ被害に遭ったら 連載「ジャーナリズムの道徳的ジレンマ」第20回

テレビ朝日の記者が財務次官からセクハラ行為に悩んでいた事例は、メディア関係者に波紋を広げています。オレがセクハラの加害者になるはずがない、と自信満々の人もいると思いますが、そんな人も「傍観者」と指摘される可能性があります。同僚や後輩がセクハラ被害者に遭ったことを知ったときのことをシミュレーションして考えたことがある人は、意外と少ないのではないでしょうか。

ハラスメントについての内規や相談窓口を完備しているメディア企業もあります。「わが社は専門家がいるので安心だ」という人もいるでしょう。でも、制度を作れば万事OKでしょうか。ルールブックは作る人や作られ方によっては妙なバイアスがかかるものですし、たえざる見直しが必要です。

〈CASE 20〉後輩の女性記者が取材先でセクハラ被害に遭ったら http://keisobiblio.com/2018/05/08/hatanaka20/

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