カテゴリー「democracy」の123件の記事

2020年12月29日 (火)

2020年に観た映画とドラマ(備忘録)

備忘録としてメモしておきたい。

●映画
『ちむぐりさ』雪国生まれの少女の眼差しを通して本土と沖縄との関係見つめる。観て良かった。
『プリズンサークル』更生とは何か。罪と向き合うとはどういうことか。観ておくべき作品だった。
『はりぼて』議会制民主主義の形骸化を喜劇ふうに暴露して終わり、ではない。テレビドキュメンタリーの快作。
『なぜ君は総理大臣になれないのか』小川淳也議員に長期間密着。こんな国会議員もいる。対象との向き合い方が絶妙。
『ランブル』黒人音楽と考えられている作品のなかに先住民の楽曲や演奏が多いことを教えてくれる。目から鱗。
『パブリック』日本語にないパブリックの意味を公共図書館をめぐるドタバタ劇から学ぶ。市民社会を考える素晴らしい作品。
『行き止まりの世界に生まれて』貧困地域に生まれてしまった子供たちの現実を移民の子が撮影。格差社会の現実を描いた作品。
『ヒルビリー・エレジー』いわゆる貧乏白人の世界から弁護士になり成功した男性の回想録を映画化。日本人が知らないアメリカ。
『コリーニ事件』この事件(小説)によってドイツの法律が改正された衝撃の作品。
『人生フルーツ』晩年をこんなふうに生きられれば、という“しみじみ系”の作品。
『オフィシャル・シークレット』英諜報部の末端職員による内部告発の実話をもとにした作品。ジャーナリスト必見。
『ナイチンゲール』オーストラリアで先住民や女性たちがどのような過酷な人生を強いられたかを告発する勇気ある作品。
『スキャンダル』保守系フォックスTVを舞台にしたセクシュアルハラスメントを実名で描く。なぜ実名で作れるだろう。
『メイキング・オブ・モータウン』R&Bなどの黒人音楽レーベルがビジネスで成功したかが描かれる。
『マイルス・デイヴィス クールの誕生』天才・鬼才といわれる音楽家の人間像に迫る。作品はすごいが人間的にはいやな奴。
『i - 新聞記者ドキュメント』森達也監督が東京新聞の望月記者を追いかける。新聞記者の行動原理や使命感が素直に描かれる。
『三島由紀夫vs東大全共闘』TBSに残っていた映像を映画化。東大全共闘の人たちがすごく魅力的。ただし煙草吸いすぎ。
『シカゴ7裁判』ベトナム反戦運動に参加して起訴された7人市民や学生の法廷劇。正義と政治を考える良作。
『マルモイ ことばあつめ』日帝の支配下にあった朝鮮半島で、辞書を作り言葉を守ろうと奮闘するドラマ。
『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男」一水会の元代表の実像に迫るドキュメンタリー。真面目で誠実な人柄にますます惹かれる。
『テネット(TENET)』順行する時間世界と逆行する時間世界をめぐる理解困難な問題作。
『はちどり』平凡な家庭の少女が体験した90年代の韓国ソウルの受験戦争、家父長制、経済成長……などが低い目線で描かれる。
『82年生まれ、キム・ジヨン』おそらく東アジア全域に共通する女性差別をえぐる作品。ベストセラー小説の映画化。
『罪の声』グリコ森永事件をモチーフにした小説の映画化。「城南宮バス停のベンチの裏」が耳に残る。
『男はつらいよ~お帰り 寅さん』満夫が小説家になっていたり、リリーさんが神保町でジャズバーを経営していたり。
『レディ・ジョーカー』2時間ほどの映画で描ききれない作品。渡哲也に物井清三は似合わない。
●2020年に観たドラマ
『プレス 事件と欲望の現場』(PRESS)『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』に通底する話がいくつもありびっくりした。BBC。
『ニュースルーム』(The NEWSROOM)共和党支持を表明するアンカーを中心にしたHBOアメドラ。アーロン・ソーキン作。
『スタートレック:ピカード』(Star Trek: Picard)

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2019年10月27日 (日)

被害者の実名報道について

京都アニメーションの放火事件で犠牲になった人の報道のあり方をめぐり、メディア各社は激しい批判にさらされた。ジャーナリズムを掲げるマスメディアの多くは「実名報道」の原則を掲げてきたし、読者・視聴者も(積極的か消極的かを別にして)実名原則に疑義を唱えることはなかった。ただし、この問題はかねてから一部で批判されてきた。それが今回の京アニ事件では、新聞社や放送局に対して、それまでにない規模で批判の声がわき上がった。

おもな報道メディアでつくるマスコミ倫理懇談会は、2019年9月の全国大会で、京アニの実名報道について議論をした。その内容を詳しく伝えた新聞社もあった(毎日朝日)。地元紙・京都新聞社も編集局内で悩ましい議論がおこったことを紙面で詳しく伝えた。新聞各社の内省ともいえる報道がなされた。それらを踏まえたあと、わたしは大学の講義で学生の意見を聞く機会をもった。

わたしは龍谷大学社会学部で「メディアと倫理」という授業を担当している。授業では、過去に実際に起こった事件や事故を事例に、学生たちに思考実験に参加してもらい、2回のディスカッションを通して議論を深める対話型のスタイルをとっている(教科書は『ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』)。これまでに、原発事故が起こったときに経営者は記者を避難させるべきか、息子が戦場記者として紛争地に行こうとしているとき家族は引き留めるべきか、などについて議論をしてきた。先週は、実子を失った家族から「そっとして」と懇願されても実名報道するかどうかを学生たちに考えてもらった。

1回目のディスカッションのルールは、学生たちに直観的に意見を述べてもらうこと。心にわき上がる自然な気持ちを交換・共有するのである。多くの学生は京アニ問題に触れて、9割以上が、遺族が懇願する事例は「匿名報道すべき」だと考え、「実名報道すべき」はほんどわずかだった。

その後、日本新聞協会の『実名と報道』に記されているような主流メディアの考え方を踏まえた論点をわたしが提示して教室全体で共有したのち、2回目のディスカッションをおこなった。2回目のディスカッションでは、感情ではなく論理・理性にもとづく結論を出してもらうことになっているので、わたしは1回目のディスカッションよりも「実名報道すべき」が多少は増えるだろう予想した。

しかし2回目のディスカッションで「実名報道すべき」は減り、「匿名報道すべき」がさらに増えるという結果となった。つまり、大手新聞がいくらマスコミ倫懇の議論を伝えようとも、いくら地元紙が内省的な記事を載せようとも、そして私が日本新聞協会がいう実名報道の根拠を解説しようとも、200人超の20歳前後の若者たちの判断には全く届かなかった。言葉を換えれば、マスメディアの検証や内省は、むしろ拒絶反応を引き起こしたといえる。

そこから得られる暫定的な知見とはどういうものだろうか。若者たちのなかには「遺族の気持ちを踏みにじるな」という主張をする人もいるが、その先には「事件や事故の犠牲者遺族を社会がどのように守れるか」という問題意識が見えてくる。たしかに彼ら彼女らには言説資源が乏しいかも知れないが、彼らとの対話からは、メディア企業の検証や内省は全体からすれば断片的な言説にすぎず、被害者や犠牲者へのアドボカシーの視点が見られないことへの苛立ちがあるように感じられるのである。

今回の京アニの事件では、報道各社はメディアスクラム防止のための対策を採ったり、紙面では実名だがネットでは匿名という措置をした社もあったようだ。それらは評価されるべきものかもしれないが、マスメディアが置かれている逆風的状況の下で、多くの読者・視聴者からは弥縫的な自己弁護に映っているとすれば、事態はますまず深刻である。

業界のあり方に心を痛めているジャーナリストは、わたしの授業に来て学生たちと対話してみることをお勧めします。

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2017年7月 3日 (月)

始動 全国地域紙ネット

 地域紙のジャーナリストたちの“よろず相談所”をfacebook上に開設しました。名目上、わたしが世話役を務めていますが、わたし一人ではあまりに非力なので、丹波新聞社の足立智和記者の力を借りています。まだ生まれたばかりの「ひよっこ」で「あまちゃん」のような存在ですが、地域紙のみなさんの参加を募ります。

全国地域紙ネット https://www.facebook.com/zenchishi/

●なぜ地域紙なのか

 全国紙や県紙(地方紙)よりも小さな「地域紙」は、全国に約200あります。そうした地域紙は、ながらく「ジャーナリズムの実践者」とは見なされてきませんでした。

 理由のひとつに、地域紙の多くが日本新聞協会に加盟していないことが挙げられます。日本新聞協会は敗戦後の占領期、日本の全国紙と県紙が設立した業界団体で、設立過程に占領軍への忖度や隷従があったことが知られています。地域紙で新聞協会に加盟している社は少数です。

 現在発行されている地域紙の一部は、戦時下の新聞統合(一県一紙政策)によって強制的に休刊に追い込まれながらも、戦後復刊した気骨ある言論機関です。明治・大正期に創刊した名門紙も少なくありません。他方、地域紙の中には、「地方の時代」やミニコミブームなどを映すかのように1970~1980年代に創刊された新しい新聞もあります。それら新興紙は、言論機関というよりも、暮らしに密着した独自のスタイルを追求してきました。

 多様な地域紙は、多様なジャーナリズムの担い手です。規模が大きな新聞社でも、政府の宣伝機関のような記事を載せる例もあります。ジャーナリズム活動の良し悪し、企業規模の大小とは関係ありません。規模の小さな新聞社を、規模の小ささゆえに「ジャーナリズムの実践者」ではないと見なしている人には考えをあらためてほしいと思います。

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2015年5月18日 (月)

結党目的を失った大阪維新は解党すべきか

 大阪維新の会は「都構想実現」のために作られた党です。結党の目的が有権者から拒否されたいま、解党するのが筋かもしれません。橋下氏の去就にだけ注目が集まったのは、彼がタレントだったことから仕方ありません。しかし、橋下氏とともに結集し、ともに苦楽をともにしてきた松井一郎知事や維新の府市議も、都構想実現というミッションを失いったのは同じはず。平たくいえば、やることがなくなったわけです。このままでは「あなたたちの高給こそ税の無駄遣い」「なにわの不良債権」などと皮肉られるかもしれません。

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2015年5月17日 (日)

形式的な「両論併記」の罠

 大学教員が授業で自分の(政治的な)意見を表明することは良くないことでしょうか。一般紙がよくやる「両論併記」のように形式的「中立」の見解を述べるにとどめるべきなのでしょうか。わたしは決してそんなふうに思いません。なぜなら、形ばかりの「中立」という立場が、ひとつのイデオロギーを体現する場合があるからです。中立を装いながら、場合によっては体制維持に有利に働いたり、あるいは一種の暴論をまともな意見として認める危険性があるからです。

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2015年4月13日 (月)

秋山さん、県議に当選

 くびき野NPOサポートセンター前理事長の秋山三枝子さんが、4月12日の統一地方選挙で、新潟県議会議員に当選しました。秋山さんは、地元の地域紙「上越タイムス」協働紙面(NPO PRESS)スタート時の編集長。わたしが博士論文を書くにあたり、通算百時間を超えるインタビューに応じていただき、東京大学の研究会(林香里研究室主宰・メディア研究のつどい)にも来てくださいました。わたしの近著『地域ジャーナリズム』(勁草書房)にも秋山さんの地域とメディアに関する考え方がたくさん収録されています。秋山さん、当選おめでとうございます。またお目にかかりましょう。

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2015年4月 8日 (水)

地方議会改革と地域メディア

 片山善博さんが昨日(7日)、京都新聞のオピニオン面「現論」で「地方議会の改革を」を訴えていました。片山さんといえば、鳥取県知事や菅内閣で総務大臣などを務めた地方自治のスペシャリストです。なので、片山さんがこういうコラムで提示する問題の枠組みは、門外漢によい導きの糸になります。ただ、わたしとしては、メディアについての言及もほしかったなと思いました。

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2014年6月20日 (金)

メディア企業ネット担当者の世代論

 昨夜、懇意にしている地方紙のジャーナリストたちと時間を忘れて深夜まで懇談しました。興味深かったのは、社会のデジタル化やグローバル化という大きな潮流に対応してきたマスメディア(新聞社)の担当者が、大きく分けて3つの世代に分類できるのではないかという議論です。

 第1世代は、ニュースをオープンにしていくことに積極的でした。インターネット元年(Windows95発売年)のサイバースペースは、まるでカルチェラタン(解放区)のような自由な空気が横溢し、メディアのデジタル部門担当者はその可能性を少しでも広げようとしました。

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2014年1月 5日 (日)

EPIC2014から10年

アメリカの若手メディア研究者M・トンプソンとR・スローンが10年ほど前に作ったEPIC2014という動画がある。一部のマスメディア関係者は、この動画に込められたメッセージに触発されたり、当惑させられたりした。しかし、この動画が警告する技術面決定論的な世界をわたしたちは生きているようには思えない。ディストピアもユートピアも到来しなかったし、テレビや新聞などの旧メディアはIT企業と共存している。この動画が描いてみせた近未来のコミュニケーション(無)秩序は大幅に外れた。しかしこの動画が2014年の私たちにしてくる最大の貢献は、「10年後」のいま、どこか浮き足立っていた当時の社会情勢をふり返る契機を与えてくれたことかもしれない。

Robin Sloan and Matt Thompson, EPIC 2014, http://www.robinsloan.com/epic/
EPIC 2014 日本語字幕版 http://www.youtube.com/watch?v=Afdxq84OYIU
“Google+Amazon=Googlezon”の出現を予言するムービー「EPIC 2014」を読み解く http://i.impressrd.jp/e/2008/04/11/482

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2012年6月20日 (水)

米国ジャーナリズム信仰への疑問

日本の「主流」メディアのジャーナリストたちや経営者は、米主流メディアの影響下にある。GHQ/SCAPによる占領時代、日本の「主流」新聞経営者たちは、CIE局長ケン・ダイクやダニエル・インボデンから、ジャーナリズムの何たるか、新聞経営の何たるかを「再教育」され、米新聞界を「お手本」にするようになった。今日も、多くの新聞関係者はアメリカ・ジャーナリズムへの信仰心が篤い。

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