「外的な継承と内的な継承」:NHK放文研・古澤健(2026)のレビュー
今春、NHK放送文化研究所がウェブ公開している論文に対するレビューを書くよう依頼されました。たいへん光栄なことなので、喜んでお受けし、感想めいたレビューをお送りしました。ただし、お送りした文章は、NHK放文研のウェブサイトでは公開されることがなく、あくまでも研究所員の研究向上のための内部資料にとどまるものですが、了解が得られたので、自分のブログに掲載しておきます。
--------------------------------------------
【対象】
古澤健(2026)「調査研究ノート:メディアにおける震災の継承――東日本大震災の発生から15年」『放送研究と調査』77(4) 32-45.
https://www.nhk.or.jp/bunken/d/_data/research/domestic/BUNA0000010760030003/files/20260401_02.pdf
【執筆者】畑仲哲雄
【本文】
ジャーナリズムには、戦争や災害の惨禍を記録し、後世に伝える役割があると言われてきました。「あの日を忘れない」「語り継ぐ」「風化に抗う」などのタイトルが付いたキャンペーン報道を続けることは報道機関に期待されてきた使命といえるでしょう。それらを「外的な継承」とすれば、古澤氏の論考が伝えるもの、NHKと福島中央テレビの中で営まれている「内的な継承」と言えるでしょう。古澤氏の論考は、内的な継承の意義と重要性を存分に伝える貴重なものと言えます。
NHKの職員研修「東日本大震災伝承」は、倫理的判断を「知識として学ぶ」のではなく「体感する」ことに重点を置く「シチュエーション・ラーニング」という手法が採用されています。簡単にいうと、道徳的ジレンマの物語を示し、「もし、あの日の現場にいたら、自分ならどうするか」を考え、グループで持ち寄るというものです。研修参加者たちは、15年前の「現場」を心の中で追体験することで、さまざまな学びを得ます。わたし自身、シチュエーション・ラーニングと共通点の多い「ケースメソッド」と呼ばれる手法を大学の授業で採り入れています[1][2]。事実やデータを教える一方通行の授業に比べて教育効果が高いためです。古澤氏は、研修参加者のコメントを事例ごとに紹介していて、それらはとても興味深いものでした。
福島中央テレビのシリーズ企画「伝えたいこと」と、同局を中心に続けられている「NNN原発勉強会」という事例も、意義深い取り組みに思えました。
「伝えたいこと」は、震災10年を節目に、夕方の情報ワイド番組の中で作られた5分強の枠で、20代の記者が中心になり、被災者の語りを引き出しています。古澤氏は、福島中央テレビに勤務する、震災当時小学3年生だった若手記者にインタビューして、次の言葉を引き出しています。「自分ごととしてとらえてもらうには、自分がもしそこにいたらとか、もし同じ経験をしたらとか、具体的に思いを巡らせることではないか。そういうニュースを伝えていかないと、歴史の教科書で見るのと同じになってしまう」。それは、組織の壁を超えて、多くの報道機関の記者やディレクターに共有してもらいたい言葉といえるでしょう。また、「NNN原発勉強会」も原発を単なる技術やデータの次元ではなく、福島第一原発の構内視察など身体感覚を伴うものとして設定されていることに、わたしのような一視聴者はある種の安心感を覚えます。
論文のまとめ部分に記された古澤氏の記述は、多くの点で納得がいくものです。すなわち、「最前線で起きたことのリアリティーを次の世代に伝えていく」というのは、冒頭で記した「内的な継承」です。そうした「内的な継承」が組織の壁を超えて共有されることを期待する古澤氏の調査研究者としての眼差しにも誠実さが感じられます。NHKや福島中央テレビ以外の事例に関する新たな報告を期待します。
[1] 畑仲哲雄(2024)「ケースブックの作成とケースメソッド授業の実践――ジャーナリズム倫理の授業を振り返って」『龍谷大学社会学部紀要』65号 pp.59-68.
[2] 畑仲哲雄(2026)『増補改訂版 ジャーナリズムの道徳的ジレンマ』勁草書房.











最近のコメント